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東京地方裁判所 昭和55年(ワ)11546号 判決

原告

京浜倉庫株式会社

右代表者

大津正二

右訴訟代理人

松尾翼

古谷明一

小杉丈夫

簑原建次

長浜隆

右訴訟復代理人

笹野哲郎

被告

中原康子

右訴訟代理人

山下寛

山下善久

主文

一  被告が昭和五五年三月八日訴外中原晟から財産分与を原因として別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地建物を譲受けた行為を取消す。

二  被告は原告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地についての東京法務局練馬出張所昭和五五年三月一一日受付第六九〇六号、同目録(二)記載の建物についての同出張所同日受付第六九〇八号、同目録(三)記載の土地についての同出張所同日受付第六九〇七号所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一〈証拠〉によれば請求原因第一項の事実〈編注・原告が債権者であること〉を認めることができる。

そして、請求原因第2項の事実〈編注・被告に対する本件土地建物についての所有権移転登記の経由〉は当事者間に争いがない。

二そこで、本件土地建物について右所有権移転登記がなされるに至つた経緯についてみるに、〈証拠〉を総合すれば次の事実を認めることができる。

1  被告は、昭和四一年九月、当時ジャパン近海株式会社に勤務していた中原と結婚し、中原は、昭和四二年一〇月、勤務先、住宅金融公庫、日本不動産銀行から融資を受けて、武蔵村山市三ツ木の土地を買入れ、翌四三年三月、同所に建物を建築して居を構え、翌々四四年四月頃には階上に増築をほどこして被告の両親、弟妹を呼寄せて同居生活をしていた。

2  中原は、昭和四七年五月ジャパン近海株式会社を退職し、一時その兄の事業の手伝をしたり、別の海運会社に四年ほど勤務したりしたが、その間、被告の希望である薬店の開業に備えて、昭和四七年一〇月中原名義で本件土地を買入れ、翌四八年春同地上に本件建物を建築して中原名義で所有権保存登記を経由し、代りに同年七月前記三ツ木の土地建物を売却処分した。

3  被告一家は、昭和五一年四月、本件建物から新規購入した都内練馬区関町のマンションに転居し、中原は、その頃、休眠会社であつた日成海運を引継いで事業を行うためその代表取締役となり、被告は右住居から本件建物に通つて薬店営業をしていたが、中原は、昭和五四年五月右マンションを売却処分し、一家は立川市柏町の柏町団地内の賃貸住宅に転居した。

4  本件土地建物については、当初その購入、建築資金調達のため中原が資金を借入れた西武信用金庫、大都工業株式会社のために中原を債務者とする抵当権設定がなされたが、中原は、昭和五三年三月、爾後の金融を得る便宜のため、右各借入債務者名義を被告に変更し、次いで、本件土地建物を担保に供して、中原もしくは同人の経営する日成海運を債務者とする借入を重ね、本件土地建物につき、昭和五一年一一月一五日債務額五〇〇万円の、同年一二月一日債務額三〇〇万円の各抵当権を国民金融公庫のために設定し、昭和五四年一一月一三日には債務額を八〇〇万円とする抵当権を金融業者吉木相彦のために、同年一二月八日には債務額を一、五〇〇万円とする抵当権を同様金融業者である株式会社賛和のためにそれぞれ設定するに至つた。

5  右借入の事実からも窺知し得るとおり、日成海運の業績は振わず、中原はその経営の建直しに腐心していたが、前記マンション処分による転居等のこともあつて、昭和五五年に入ると、被告は中原の経営する日成海運の経営不振を察知し、被告の営む薬店の店舗として使用していた本件土地建物についても、これが高利金融の担保に供されていることを懸念し、登記簿謄本を取寄せて調査したところ、前記各抵当権設定の事実(但し、吉木相彦を権利者とする抵当権は昭和五五年二月二七日解約を原因として抹消登記がなされた。)を知り、被告の実弟徳田勝、被告の本件訴訟代理人たる山下寛弁護士と相談の上、昭和五五年三月五日、株式会社賛和に対し、親族らからの借入により調達した一、〇〇〇万円を支払つて、その抵当権設定契約の解除をなし抹消登記手続をした。

6  そして、被告は、当時すでに中原の唯一の資産となつていた本件土地建物を保全するため、中原の同意の下に、右債務弁済の際入手した本件土地建物の権利証、中原名義の印鑑証明書等を利用し、税金対策上所有権移転登記は財産分与を原因としてするのが得策である旨の税理士の助言を容れて、昭和五五年三月八日、前記のとおり本件土地建物について財産分与を原因とする所有権移転登記手続をした。

7  次いで、昭和五五年三月三一日、前記のとおり被告と中原との協議離婚届出がなされるに至つたが、被告と中原はその子供らと共に、同年五月の連休明けまで当時同人らが住居としていた前記立川市柏町の賃貸住宅で同居生活を続け、被告は同所から本件建物の店舗に通い、子供らも武蔵村山市の学校に通学していた。

三以上認定の事実からすると、昭和五五年三月八日本件土地建物について財産分与を原因として被告名義の所有権移転登記がなされた後の同月三一日中原と被告夫婦の協議離婦届出がなされ、また、同年五月頃以降実際上も別居生活をするに至つているとはいえ、右所有権移転登記手続がなされた当時においては、右手続は、専ら中原の債権者らからの追及を免れ、本件土地建物を被告の手許にとどめておくことを目的とし、財産分与に仮託してなされたものとみるほかはないものというべきである。そして、本件土地建物は当時中原の有する唯一の資産であつたことは前認定のとおりであり、中原に詐害意思の存したことも前認定に徴し明らかであるというべきであるから、本件土地建物につき中原から被告に対し財産分与をこととしてなされた譲渡行為は詐害行為に該当し、取消さるべきものである。

四よつて、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(落合威)

物件目録、約束手形目録〈省略〉

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